樋野先生の著書「いい覚悟で生きる」に次のようなくだりがあります。
「遺伝性の大腸がんが発症した40代男性の患者さんは、二重のショックを受けて理性を失った奥さんから非難され、子どもに遺伝したらと思うと自分はいたたまれない、と訴えました。そんなとき、私たち医学者は言葉に詰まります。『遺伝は自分で努力してどうなるものでもないんだから、罪の意識にさいなまされることはありませんよ』というのは簡単です。でも、『そんな気休め言わないでください』と一蹴されてしまうでしょう。患者さんは悔しさのあまり泣き、怒り、また泣きます。
こうした苦境に立たされながら、私がたどり着いた言葉があります。『がんも病気も個性のひとつですよ』生まれついて、がん発症がある程度予測されているのならば、それはもうその人の特質、個性としか言いようがないではありませんか。」
『がんも病気も個性のひとつです』という言葉に心が留まりました。個性のない人はいません。個性があるからその人そのものの存在があるのですね。その個性を生かすか、それが弱点ならば、その個性とどういうようにうまく付き合い、矯正し、より良いものに成長させるかは、その人によります。成長と成熟を繰り返して人ができていくのだなあとつくづく感じました。
大きなマイナスの要因でさえ、マイナスとマイナスが寄り添えば、プラスになるんですね。
5月に入りました。一か月も守られて、一日一日を過ごさせていただきましょう。榊原 寛