2009年08月のメッセージ 榊原寛

心の平静という幸福感


  「危機に問う経済思想」という新聞のコラムで、経済学史、経済思想を専門にしている大阪大教授の堂目卓生さんは、経済学の父と言われているアダム・スミスについて、「スミスは利己心だけで市場が形成されると言ったわけではありません。他人の喜びや悲しみ、怒りなどの感情を自分の心の中に写し取り、それと同様の感情を自分の中に起こそうとする能力として『同感』を強調した」と説いています。「他人に同感し、他人から同感されることを求める社会的存在だという制約があってこそ、利己心に基づく経済行動は社会全体に利益をもたらす」ともいっています。

 日本は戦後すさまじい経済発展を遂げてきました。世界の国から、エコノミックアニマルとも揶揄されても経済成長を追い求めてきました。しかし、バブル崩壊に遭遇し、今また世界的恐慌のあおりを受けて、職を失った人々が激増しています。だからこそ経済成長だと政治家も事業家も声をそろえて叫んでいます。堂目さんは、なおも次のような点を指摘しています。「単に経済成長すればいいというのではなく、何のための成長なのかをスミスは考えていました。最下層の人々が職を得、生活改善することで、中産階級や富んだ人も含めた全体が安心して暮らせる社会を思い描いていました。」「ストア哲学を信奉していたスミスの根底には、『心の平静』という幸福感があった」。

 いまやワーキングプアばかりか、心までプアにしてしまっているのではないでしょうか。いえ、もしかすると、日本人の心そのものがプアであったために、目先の経済の豊かさだけを求め、それが幸福をもたらせる鍵だと思い込んでしまっていたのではないでしょうか。

 自分は戦争体験はありませんが、疎開先で岩塩すらないひもじい生活を体験しています。二度と貧乏はいやだという思いがあると同時に、あの貧しさは、心をダメにする貧しさではなかったと思っています。今日本は、過去の豊かさ、そして更なる豊かさを求めながら心の豊かさを失ってしまい、心が貧しくなってしまっているのではないでしょうか。それどころか心が壊れてしまっているといっても過言ではありません。あまりにも利己的、自己中心的な生き方をさせてしまっているような気がします。

 聖書には「力の限り、見張って、あなたの心を見守れ。いのちの泉はこれからわく」(箴言4:8)という言葉があります。お互いに守るべきものがたくさんあります。どれも重要なものばかりです。しかし、心が壊れるといのちが枯れます。

 フライデーナイトは、何よりも心を大切に考える集会です。自分の心、友の心、恋人の心、家族の心、大切にして生きていきたいと思います。


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